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日本茶の店 清水茶寮からのお便り

店主の徒然日記、ハーブ園から、森林から便りが届きます・・・

山からのたより  その29 2019年初秋の巻

山からのたより  その29 2019年初秋の巻

   山の木を出荷するとき  池谷キワ子

清水茶寮ホームページ読者のみなさまこんにちは。
もっと早くお便りするつもりでしたのに半年が過ぎてしまいました。
夏が色あせてくるとほっとする一方、あの暑さが懐かしいような、なにかがこぼれ落ちたような、
うら寂しい気分があります。
林業をしているのに、いままで木を販売することをお話ししてきませんでした。
近頃は我が家のように区画が狭い林分を売ろうとしても、代金を手にすることが難しく、
ずいぶん長い間売り払っていません。
そこで30年前の父の頃のやり方を思い出し書き綴ってみることにしました。

yama29-01.jpg
(林齢70年のヒノキ林、それ以上の林齢になって出材可能となる)

板を首からさげた父が林内の中央にいて、まわりで叔父と私が木を測っています。
「目通り」(目の高さで木の周囲採寸)をメジャーで測って大声で父に叫びます。すべて尺貫法です。
「ヒノキで1尺7寸!」「スギ2尺3寸!」という私たちに、
父がこだまのようにくり返しながら板の表に記入していきます。
今度は「スギ、にしゃまる~(二尺0ちょうど)」「ヒノキで尺五よ~」と独特な調子をつけて唄うように叫びます。
父がそっくりの口調で確認のオウム返しです。
測った木にはぐるりと白チョークでマークする、この木は測量済みとどこからでもわかるための印です。
こうして売ろうとする林内の残らずの木を毎木調査するのは、これからこの立木を素材生産業者に
売り渡したいからです。いまでは、ここはヒノキ、こっちはスギといっせいに植えていますが、
50年ほど前までは適地適木といってこの二種をミックスして植えてきました。

多摩地域では育ちあがった木を売ろうとなると、まだ山に立っている状態の木(という)を
素材生産業者に買い取ってもらい、業者が伐採し出材して(伐出という)丸太の市場なり製材所なりに
販売することが多いのでした。
当時我が家は尺貫法を使い、1尺5寸から1寸刻みに区分けした表に正印を父は記入していきます。
測り手は急斜面に沿った木の上部に取りついては、目の高さで木に巻き尺を回して太さを測るのです。
急斜面の林内を上下に駆け回っての採寸はなかなか手間がかかります。
少しでも曲がりのある木、いびつな木は表から除外し、通直完満、まっすぐな樹木だけのカウントなのです。
1尺5寸に満たないのも玉下と呼んでこれも除外です。
私は「1尺9寸曲がり」と叫んで、「木は工場で作るようにはいかないのにね」とわずかな曲がり木でも
厳しくはねられるようになってしまったのを嘆きつつです。
帰宅してからは、「玉帳(ぎょくちょう)」と呼ぶ立木採寸表により、立木がどの位の利用材積があるのかの計算です。
丸太として利用できる部分が一体何石なるのか、木を4mほどにぶつ切りして丸太で出荷するのですが、
一玉、二玉までか、三玉までとれるか、そうとしたらそれは容積がどうなのか、まだ立っている木なので
平均の細り率で計算し、全体でどれだけの石数になるのか、数字を出すのは経験が必要です。
市場の単価はどれくらいか、業者の伐出単価はどれほどになるのか、さまざま勘案し売値の推定をしていきます。

yama29-02-01.jpg
(秋は伐採の時期。11月の養沢川)  
1石=1尺×1尺×10尺=0.28㎥)・・・1尺=30.3㎝
(尺貫法、メートル法に統一されたが使い勝手のよい単位である)

いよいよ商談になります。玄関のテーブルにおかれた大そろばんに父が売りたい数字をいれる、
その珠を業者のおじさんが下げおろす、「この程度でないとねえ」とまた父がいくつか珠をいれる。
その繰り返しと理由づけが飛び交い、父は手入れと素性の良さを、業者は搬出の経費高や立木の
難点をあげつらうのでした。
業者は「このくらいにしていただかないと到底」と冷え切った市場のこの頃を言い張る、
こちらも「枝打ちは適時によそより高くまで打ちあげていて、谷筋だから木の伸びも十分だし」とか言います。
彼は養澤出身で、一代で製材所と素材生産業を築きました。
山を見渡せばどんな材がとれるかの経験と勘がすぐれていて、木を見る目が半端ではなく、いつごろ枝打ちしたか、
芯黒の材が出ないか、苗の時代からの素性はどうか、林内を一目見ただけでわかり、
その上買おうとする林分をくまなく踏破して調べ尽くしているのです。
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(枝打ちは最低でも地面から4メートル高まで、以前はすべて6メートルしていた)

あのあたりの木は曲がりが多い、あの木のうろ(空洞)は上の方まで通っているなど。
あまりあげつらわれると、つい「木は生きているのだから、少しは傾いだり捻じれたりするのよねえ」と
心の中で木の肩を持ってしまいます。
かなりの値引きの後、業者のおじさんは「売らないと言った境の太いやつを付けてくれるのなら、
おっしゃるこの値で手を打ちましょう」と畳み込んできて、しぶしぶ承知となるのです。
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(9月になって林内にはシュウカイドウが咲きだしました)

近年は買い手市場で、私たちは弱い立場です。丁寧に世話をしても、たくさんの短所をあげつらわれる、
悔しいところです。だから私の代になってからの取引は、父のように余裕をもって楽しげに商談はできませんでした。
ねばるつもりでいてもこれ上無理かなと早々に手を打ってしまい、ずいぶん後悔したこともありました。
その後さらに市況も悪化して伐出経費がかさみ、作業路の入らないところは赤字寸前となり販売はすっかり細って、
その後途絶えてしまっています。
もし市場で丸太が30%下落すると、伐出費は変わりませんから私たちにとっては時に60%70%の値下がりになるのでした。
売値が折り合うと、座敷で母の手料理を業者と父が囲み一杯となります。この席の話題はすべて山のこと。
林地事情、丸太の市値、出材の難しさ、この頃の気象の不安定さ、危険をはらむ現場作業のこと。
でも商談がまとまってとりあえず二人はご機嫌でした。

さて、林木が人手に渡って、すぐ伐採が開始されるのが常です。
養澤のあたりは作業路が入っていませんから大抵は架線集材で、伐採地に業者が新しく設置した
架線ケーブルを伝って丸太となって降ろされたスギ、ヒノキは、にわか作りの土場(磐梯(ばんだい))に山と積まれ、
近くの多摩木材センター、はるかに遠い関西の値のいい市場、近隣の製材所など、行く先を熟慮して
仕分けされ運ばれます。関西では良木の評価が高いのです。そして、業者の手に渡ってしまってからは、
何十年と手塩にかけて守り育てた木も、だれがどう使うことになったのかは皆目わからないのがちょっと寂しいことです。
伐採跡地に目を向けると、枝葉が散乱し、がらんとなっていて、一人前に商品となって買われていったのを
喜ぶべきなのに、なんだかむなしい風が吹いているように見えます。
大事な娘を嫁入りさせた親の心境です。
そうはいっても、祖父、父、時には曽祖父が植えて育てて守ってくれたからこそ今日の出荷があるのです。

yama29-05.jpg
(伐採跡地の様子。写真は枝葉を寄せ集めた「」もされていて、すでにスギ苗が植えられている)

だから私もこの伐採跡地に来春の植え付け時期には新植して、木を育てることを続けなくてはいけない、
どんな時代が来ようともと固く心に誓ってしまいます。ただ、この覚悟だけでは林業の存続は難しい。
木を使うことがどれだけ 「いいこと」 が多いかを知ってもらい、また生業として時代に合ったやり方を探らなくてはと思っています。
  1. 2019/09/13(金) 15:18:07|
  2. 山からの便り

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Author:せいすいさりょう


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