山からのたより その18 ‘15年早春の巻
本の感想「鉄がそんなに大事とは!地球は鉄の惑星だった」
池谷キワ子
清水茶寮のみなさまこんにちは。ようやく春の足音が聞こえてきました。
山のひだまりに「オオイヌノフグリ」「スミレ」が咲き出し、
庭先の落ち葉の懐に黄色い「フクジュソウ」や「ヒガンバナ」の緑の葉が目につきはじめました。
今回は本の紹介です。

「森は海の恋人」と称して、気仙沼のカキ・ホタテ養殖漁業を営む畠山重篤氏たちが、
山に木を植える運動を長い間やってきたことは、広く知られています。
本やTVでお話を聞いた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
わたしも10年ぐらいまえ羽村市で、「山を手入れすれば下流の海が豊かになるのだ」という、
日焼けして髭を蓄えたやさしい風貌の畠山氏のことばに接しました。
前回この欄に登場した、そらあけの会Oさんは、つい最近、この畠山氏から身近にお話を聴く
機会を得たと『鉄は魔法つかい』畠山重篤著(小学館・1300円)の本を私に届けてくれました。
畠山重篤氏は50年にも及ぶ漁業の傍ら山にも熱い視線を送り続け、
さらに「森には魔法つかいがいる」と聞かされていた、
そのおおもとを探るため研究者から意見を聞いたり、海の調査の協力をしたりしてきました。
このことをエッセイや学校の副読本も書いてきています。
東日本大震災では、牡蠣の養殖場だけでなくお母様まで津波で失ってしまいました。
そんな中でも勇気をふるって出版したこの本は、たくさんの漫画風イラストや問答形式にして、
子供にも読みやすい、でも内容はとても深い問題を語り掛けています。
地球にあるいのちは、実は鉄の力のよるものだったというのです。
鉄がさまざまな大切な元素の結び付け役として、光合成する植物、川の水、深い海、
人間の身体の中、あらゆるところで活躍していることを
鉄の研究第一人者ジョン・マーチン、広島大の長沼毅ら、幅広い科学者たちから聞きただし、
わかりやすく解説していて、私には「目から鱗」の読後感でした。
中国から黄砂に混じって飛ぶ鉄、アムール川上流大湿原から運ばれてくる鉄、
海に運ばれた鉄は沈んでから大回遊をして黒潮に乗って浮上する鉄。
これら微量な鉄が微生物やプランクトンを養うことで、たくさんの豊かな生命体がピラミッド状に
つくりあげられるのでした。
でも、この興味深い実証を一口で紹介するにはとっても難しい、まずはご一読をお勧めします。
はげ山から鉄分が流れてきてもそれではだめで、森からの腐葉土に作用して「フルボ酸鉄」という
結合体にならないと、植物プランクトン発生の役に立たない。
そして川が海と出会う汽水域(きすいいき)が、生命体にとって豊かな役割を果たす大事な場所だそうです。
多くの地道な研究者によって切り開かれようとしている鉄が絡んだ地球上の生命の謎を、
畠山さんはその仕組みをやさしく語っていきます。エピソードは世界中にわたっています。
「赤毛のアン」のプリンスエドワード島がロブスターの好産地なのも、島自体が赤い土に
覆われていることに関係している、原題と違えて題名に「赤毛~」と名付けて多くの愛読書を
得た村岡花子さんですが、この鉄の多い島をイメージしてのことではと畠山さん説を唱えています。
身近で柔軟な発想、これがこの本の大きな魅力です。

私の山では、5,6年生以上の幼樹、たいていは2,3メートルですが、雪や風でよく倒れます。
その時起こしてまっすぐに立ててやる「雪起こし」は以前は針金を使っていました。
木々が立派にすっと伸びてくると、不要になった針金がゆわえつけた枝にぶら下がったり林内に
捨て置かれたりしていました。「針金は腐るから大丈夫だ」山仕事のユウさんは言っていました。
そのとおり、危なくないようにしておけば、このごろ使うビニール紐よりずっと環境的なのがこの本で
よくわかったのでした。
(たくさんのイラストが楽しい。「赤毛のアン」のプリンスエドワード島の紹介。右下は筆者の似顔絵。124ページ)
- 2015/02/25(水) 12:40:10|
- 山からの便り
-
-