山からのたより その12 ヨーロッパの森林
池谷キワ子
2013年4月末にヘルシンキ、バルト三国、ポーランドにいってきました。
毎年一回、夫の友人たちと中近東、東欧あたりに行っています。
林業とは関係ない旅です。
そこで今回の「山からのたより」はすこし趣きを変えて世界の森林を話題にします。
といっても、そんな旅の中で見たこと、
いままでに林業のなかまから聞きかじった話や読んだ本がネタです。
もうとっくにご存じの内容かとも思いますし、独断的に書いています。

※北極に近いロシアの上空を飛ぶ
フィンランドは世界一の森林国で国土の74%を森が占め、
大地は平坦で湖沼が多いそうです。
でも、この国の滞在は2日、ヘルシンキだけでしたから森林の様子は垣間見ることも
できませんでした。北欧材としてノルウエーなどから日本にも多く輸入されています。
バルト三国もポーランドもまったく平な地面が続いていました。
エストニアではもっとも高い山が300メートルと聞きびっくりでした。
バルト三国では、たくさんの人工林の中をバスで通過し、
シラカバ、トウヒ、アカマツが主で日本より密植(日本では通常ヘクタール当たり3千本)でした。
もちろん天然林もあるのですが背の低い灌木でした。
人工林もまだほとんどが成長過程で、日本の成長にあわせて眺めると、
せいぜい30年くらいの樹齢にみえました。人工林はそれ以前にはあまりなかったらしい、
あったとすればどこかに残っているはずですから。
風などであれたところも枯れ木もそのままで育林の手入れは少なく、
あまり太くなくても皆伐(いっせいに伐る)して、薪や建材につかっているようです。
でも、きちんと伐採跡地は再造林(苗を植える)してありました。

※シラカバとトウヒの人工林 バルト三国リトアニア 2013年
安田喜憲氏の著書『日本よ、森の環境国家たれ』によると、
ヨーロッパは「畑作牧畜民」で「家畜の民」。
日本は東南アジアとともに「稲作漁労民」で「森の民」、と異なる道を歩んできた、
前者は天然木を伐り払ってしまい、ヒツジやヤギを育てて小麦を作ってきた、
後者の日本など稲作国家は、田んぼに流れ来る水を確保するために、
森林を大事に守り循環させてきたといいます。ドイツもいまでは森林国ですが、
それは森を畑や牧草地にしすぎたために、これではまずいと人工林造りにまい進した
結果からでした。
いま、森林国といえるのは北欧、ドイツのほかにオーストリアがあり、
近年の林野庁は、急峻な地形が似ているここの森林政策を参考にしています。
安田氏のこの本によると、ギリシャのアテネ・パルテノン神殿の周辺も、
アテネ北部のご神託で有名なデルフィ遺跡の一帯も、鬱蒼とした森林にかこまれていた
そうです。ギリシャのように雨に少ない地中海沿岸で森林が伐られ再造林をしないでいると、
雨のたびに土は流れ落ち、岩山となって、二度と樹木の生い茂る山には戻れないのです。
数年前ギリシャの旅をしたおりは、そんな森林があったとは想像もできませんでした。

※ギリシャ・デルフィ遺跡2008年 巫女の占いが著名で、
ご神託によりたくさんの国の運命が決定されたりした

※アテネ・パルテノン神殿の一部。本殿は修復中 2008年
デルフィもパルテノンも深い森に覆われていたという
キリスト教が広まる以前は、この国は多神教。
山の神様は「メドゥーサ」と言う女神で、森の中から人々を見守っていた。
メドゥーサがヘビの髪の毛を持つことと多神教時代の抹消もあって、
見るものを石に変えると忌み嫌われてしまったのでした。
キリスト教推進のローマ皇帝ユスチニアヌスがこの像をイスタンブールの貯水池に
投げ込んでしまったのは有名な話です。

※水槽から拾いだされたメドゥーサ(「日本よ、森の環境国家たれ」より)
レバノンスギは、広大なスケールで天をつく太い樹林が、
地中海東岸の中近東からトルコあたりまで存在したのに、
これをほとんどすべてを伐りつくしてしまいました。
メソポタミアをはじめ4大文明地も森がなくなって文明が滅びました。

※トルコ・ヒッタイト古王国のハットゥシャシュ遺跡
ここもレバノンスギの鬱蒼とした森林地帯だったらしい 2008年
この本を読むと、わたしたちの祖先は賢い選択をしたと知ります。
継続して森林を育成していく手法を確立してきたし、
治山治水という言葉のように、
日本の過去の為政者は、水を治めることが大きな役目でした。
小麦が主食のヨーロッパは、将来、人口増加で食物不足の時代を
むかえたとき稲作と違って反当たりの収穫量が少ないために食糧疲弊するのではとも書かれています。
外国の旅をすると、山山が厚い森林帯で覆いつくされている日本は、
手入れ不足が生じてはいるけれど、雨も多くて自然の豊かさに恵まれている国なの
だと知らされることです。
- 2013/05/29(水) 09:23:26|
- 山からの便り
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0