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日本茶の店 清水茶寮からのお便り

店主の徒然日記、ハーブ園から、森林から便りが届きます・・・

山からのたより  その26  2017年晩秋の巻

山からのたより  その26  2017年晩秋の巻

             蛇に出会ったこと                  池谷キワ子

今年の夏も前半は暑さいっぱいで、後半は雨の多い日々でした。それでも
東京エリアは豪雨をまぬがれましたが、九州はひどい災害にみまわれました。
10月も雨ばかりの日が続きました。極端な気象です。      
清清水茶寮のみなさまお元気でしたか。今回はヘビのお話しです。

7月、庭に自生するヤマユリ
写真上 7月、庭に自生するヤマユリ

写真下 8月、ささんた小屋裏に咲いたキツネノカミソリ
8月、ささんた小屋裏の咲いたキツネノカミソリ

私たちがその巨大なヘビに出あったのは、10年も前の秋も深まって木の葉も落ち始めたころでした。
まだ女性ばかりだった「そらあけの会」一行が枝打ちに通っている林地にとりつくために、大岳沢を
石を跳び越しながらわたっていたときでした。先頭にいた私がいつになく、「キャーッ」と黄色い声を
張り上げてしまったのです。沢岸の曲がりくねった太い枯れ枝にからみついて、橙色がまだらには
いった太いヘビがこちらを睨んで、赤い舌をチロチロと出していました。
見たこともないほど大きく太く、何か平たいものを飲み込んだかのようにコブラ状に首もとがさらに
太く平らになっていました。

「だれかが南洋産のペットをすてていったのかもしれない」私は見慣れない大きさのヘビにそんなこと
を口走ってしまいました。多摩の秋川上流にあるこの集落は、都会から車に乗せて来ては捨てられる
さまざまな動物に悩まされていたのです。
「それだったら大きい石なげて殺してしまおうか。こんなのが増えたらたいへんよ。」
メンバーのひとりが震えながらも意を決したようにいいました。とにかく、あまり手荒なことはしないで置
こうと、カメラを持っていたリーダーが、腕をいっぱいに伸ばして、何枚かシャッターをきりました。大蛇は、
私たちが立ち去るまで、赤い舌をふるわせながら鎌首をもちあげて威嚇しつづけていました。遠巻きに
しのび足で通り抜け、私たちはそのヘビとお別れしました。

山に棲むどの動物にとっても人間ほど怖いものはないのだろう、私たちはクマやスズメバチをひどく恐れ
ているけれど、鉄砲でズドンとやったり大事な巣を薬噴射で叩き壊す人間は、相手にとってもっと恐ろしい
のだろうと考えつつ急斜面をヒノキ15年生の枝打ち現場へ登りました。

何日かして、林業家で山のことなら何でも生き字引のK氏のところへ、写真を持ってお訪ねしました。
「これは正真正銘の《ヤマッカガシ》だな。大岳沢の主みたいなやつだ。首の部分が平べったく太くなって
いたのは、怒っていたからなんだよ。」

石で殺さなくてよかった、でももう、ふいにでくわしたくない、遠くからならちょっと逢ってみたいけど、
と思いながら、太い「たんくる」(丸太)が威勢よく暖炉で燃えているK邸を後にしました。
大岳沢
写真上 大岳沢 

写真下 文中の大岳沢で出会ったヤマカガシ。直径10センチほどあった。撮影 岡根陽子
文中の大岳沢で出会ったヤマカガシ。直径10センチほどあった。撮影 岡根陽子

「ヘビ」、誰もがその姿にはゾクッとさせられます。一度見たら忘れられない様子は、実は造形的には
すばらしいのかもしれないし、そのたたずまいを見ると、本人は相当誇り高いのではと思えてなりません。
以前はそこかしこにいたアオダイショウ、マムシ、シマヘビ、ヤマカガシ、ジムグリなどもこのごろは
見かけることが少なくなりました。でも、恐竜のように、標本の世界に入ってしまっては二度と見られず、
取り返しがつかないことです。

我が家の茶の間を改修するまえのこと、大きなアオダイショウが天井から落ちてきたことがありました。
父が落ち着いて棒に挟んで、裏庭に放り出しました。また、ひとりで林道を運転していたときのことです。
石ごろの路面で、のうのうと昼寝中だったヘビが、目と鼻の先になって車の接近に気づき「がばっ」と
鎌首をもたげ、もんどりうって路肩に逃げ去ったことがありました。爬虫類の日向ぼっこは体温を上げて
活動するために必要なのでした。

山作業のプロ「ユウさん」がボランティア「林土戸」(りんどこ)相手に林業の師匠をやっていたころでした。
作業現場に登っていくと、割った小枝に頭を挟まれて観念しているマムシが、こっそり岩陰の地面に刺して
ありました。林内での昼食後、ユウさんは、沢に降りていってそれを三枚におろし、たたき状にして葉っぱ
に盛り、メンバーにご披露したのです。みんな我先にと腰を上げ、無言で枝打ち地点に上がっていきました。
ところが残った美人OL嬢が口に入れて「おいしい!」と言ったのです。彼女はその切り身をお弁当箱に入れ
て持ち帰りました。ユウさんはといえば、肝を飲んだとか。私は豆粒大を食べようとしたら何とも言えない
マムシの匂いに圧倒されてしまったのでした。

思い出せば幼いころ、やせっぽちだった私は、マムシの粉を飲まされたことがありました。父が、生けどりに
したマムシの頭を釘で板に打ち付け、ウナギのように切り開き、竹串に刺し、囲炉裏であぶってカリカリにし、
薬研(やげん)で粉末にしたものです。

写真 カエルを飲み込んでいるシマヘビ。2017年6月 撮影 岡根陽子
写真 カエルを飲み込んでいるシマヘビ。2017年6月 撮影 岡根陽子

森林には宅地、田畑、野原にはない食物連鎖による生物生態系が構築されています。でも近年は
その自然のバランスが崩れて、絶滅しそうなもの、増えすぎてしまったものが現われ、わたしのまわ
りでも幼木を食い荒らすシカ、畑を我が物顔に餌場にするイノシシ、サルが増加し、ツキノワグマまで
集落を訪れるようになりました。こうなっては林業はますます持続不可能です。シカでは東京都でも、
さまざまな対策に取り組んでいますが、例に漏れず減少に向かったとは聞かれません。

あらゆる生命体が均衡を保って林内に生息し山をシェアーしていく、豊かな森林とそれに並行して成り
たっていく林業、そういう未来の山にしなくてはと、ヘビのことから連想して思ったことでした。
  1. 2017/11/12(日) 20:02:52|
  2. 山からの便り

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Author:せいすいさりょう


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