山からのたより その8 ~山の道~
池谷キワ子
いっきに春が到来しました。でも、例年より10日近く遅かったようです。
花粉症のみなさま、今春はいかがでしたでしょうか。
わたしたち林業をいとなむ者にとっては肩身が狭い時期でもあります。
養沢の里は4月中旬のいま、山桜、ミツバツツジの紫、イタヤカエデの黄緑、
ヤマブキや菜の花の黄色、コブシの白、と色とりどりです。
今回は山の道をご紹介します。
山の中で歩き道がかなたへと登って続いているのは、
なんとなく詩情を感じ、教科書にあった
「道程」(高村光太郎)という詩を思い出します。
折れ曲がっていって、木立にさえぎられて、
さきがどんなふうに続いているのか皆目わからない
からかもしれません。
(下写真は古くからの踏み跡道)
育てている木を手入れする、風害などが起きていないか見回る、それにはまず歩きやすい道がなければ始まりません。
登山道はともかく、林業が衰退して、以前はしっかり出来ていた道も、草が生い茂って、
どこら辺が道だったかどうしてもわからない、そんなところがいっぱいです。
「ああ、この辺が道だったらしい」と見出した時は、昔の人々がたどってきた跡なんだと思うとうれしくなります。
山の歩き道つくりは、つづら折れにし、骨を折らずに登っていけるようなルートを設営します。
手入れの荷物は、チェンソーや燃料、鉈や腰のこぎり、お弁当、もろもろの道具で、けっこうな量です。
これを背負って楽に登れるように整備します。これは一時的な道のこともあり、面白がって好きなように造ったりです。
そうはいっても間伐とその選木、大刈り、といった手入れをしているときは、
林内を道などおかまいなしに歩き回らなければなりませんけど。
3月、「そらあけの会」は、「井戸入り沢」から「横根峠」に抜ける歩道を開設しました。
あらかじめ下見し、印をつけた木々に沿って、道づくり班5名の男性が、「トンガ」(唐鍬)を振りおろし、
がりがりと斜面を切とっての造成です。2日かからずに3百メートルの新道が出来上がりました。
その日の帰路は、みんなで通り初めをして、横根古道ルートで下山しました。
この横根古道は、以前は養沢へのメイン街道で、馬や人力車が行き交ったところであり、
馬頭観音がいくつも建立されています。
(馬頭観音 左1803年・右1855年建立 馬の安全祈願)
ほんとうは今の時代、車両で頂上までいける「作業路」が断じて必要です。
車で通れる道を造って、機械を使っての出材は、コスト削減には欠かせません。
でも、このあたりは急傾斜だから、林地を荒らす?小規模所有だから他人の林地を通る?など作業路造りは
とても難しいのです。
(写真・歩道作り中と完成した道・今年3月)
視界が刻々と変わる山道歩きは、足元にいまは、スミレ、ヤマルリソウ、
キケマン、ムラサキケマン、ニリンソウ、ネコノメソウと賑やか。
遠い山々が春霞でおぼろげに折り重なって望まれ、歩く気分は最高です。
ふかふかした土の地面は、足裏に心地よく、人が行き交うにつれ山道は自然に
しっかり整っていきます。
わたしは山のマップに、この増やした道を書き足して、大勢のかたがたに歩いていただき、
森の表情を楽しんでほしいとおもっています。人工林も手入れをすれば豊かな山に変貌し、
年輪の詰んだ力強い材木が取れるようになります。
(キケマンとワサビの花。写真下は横根古道。さびれてしまったが道幅は広い)
Author:せいすいさりょう
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